2022.10.01
- あたしンちについて
あたしンちという漫画があるだろう。あれの魅力は偏に、皆が必ず通過する体験の集大成であることにある。中学生のときに体験したこと。高校生のときに体験したこと。結婚して、体験したこと。子供を持って、体験したこと。ママ友を持って、体験したこと。そのような人間が人生において必ず経験すること、あるいは他者のそうしているのを目撃したことが、精巧に描写されている。これを読んで我々は、母とその友達が確かに繰り広げていた会話を思い出して笑い、過去に味わっていたのに忘れてしまった感情を思い出して懐かしむ。そしてどこかにあるであろう家族像、人物像をしっかりと脳裏に焼き付け、自分と比較してしまう。
あたしンちは、そこに描かれている景色がきっと、この世のどこかに眠っていると信じさせてしまう。その魔力を持っている。それが他の漫画とは、決定的に異なるのだ。フィクションでありながら、どこか自分の家族や言動と比較してしまう。それがあたしンちであると、私は思う。