2022.11.07
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バッドガイズ考察週間
お久しぶりです。まどです。考察系は久々やな。
最近『バッドガイズ』という映画の虜となっています。僕はまだ五回しか映画館に足を運んでいないのですが、回を重ねれば重ねるほど多くの発見が、そして多くの感動が僕の中に沸き起こります。
ここ数日は、その感動を備忘的にまとめておこうかな、と。つまりはバッドガイズ考察週間です。最高。
さて、本日は主人公たるミスター・ウルフについて。とりわけ彼の「弱さ」について。
なおネタバレを含むので、未視聴の方は今すぐに、映画館に足を運びましょう。
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1.前提:ミスター・ウルフはなぜバッドガイになったのか?
前提として、まず「なぜウルフはバッドガイになったのか?」について、ここでは考察したいと思います。
ミスター・ウルフ。バッドガイズのリーダー的存在にして、スリや脱税、詐欺など多岐にわたる犯罪に手を染める極悪人。一応、あの世界の人々から見れば、彼はそのように映るはずです。そして観客たる我々からも、一見すれば頼りがいのあり頭の切れる兄貴分、というように映るでしょう。
では、そもそもなぜ彼はバッドガイになったのか?
それについて参考になりそうなことを、彼は冒頭で次のように述べています。冒頭はYouTubeで公開されているので、今一度観てみてください。以下のリンクからどうぞ。
・本当は人々に受け入れてほしい*1
・でも今を楽しむしか無い*2
つまり、本当は普通に暮らしたいけど、人々が怖がってしまうので、極悪人を演じている。たぶん、これが彼のバッドガイとしての動機だと思います。
もちろん、バッドガイズの仲間たちの存在も、彼がバッドガイを続けている一つの理由ではあると思います。しかし、それはたぶん、バッドガイズが現在の形になったことによるもので、本来彼がバッドガイであるのはきっと「人々に怖がられて普通に暮らせないから」というところが大きいように思われます。
ちなみに、注意深く聴いてもらえれば分かるように、上記のものは彼の(主語が’I’の)意見です。他のバッドガイズメンバーがこう思っているとは限りませんし、少なくとも今は、たぶんこう思っていません。詳しくは後ほど(1-4.及び2-3.にて)。
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1-2.「臆病? 俺が?」
これを象徴しているのが、マーマレードの実験中、ダイアンに「クルーニーする」場面です。オオカミでも怖くないと証明できたのに、と怒り心頭のダイアンが、彼にこう問いかけます(台詞はうろ覚えです、許して)。
「傲慢なのか臆病なのか、はっきりしてよ」
それに対して彼は、このように切り返します。
「臆病? 俺が? オオカミはどの物語でも悪役だ」
つまり彼は、オオカミは悪役だから俺が臆病であるはずがない、と言っています。これこそ、彼がどうしてバッドガイになったのかを表しています。
仮に臆病を否定したいなら、他にいくらでも言いようはあります。彼にはこれまで成してきた大業の数々があるのですから。盗みそのものの勇敢さを誇るのは文脈上相応しくないとしても、その中心的人物として仲間を引っ張ってきたことなど、言えることはいくらでもあります。臆病を否定する、というところだけ見れば。
しかし彼はそう言いませんでした。物語の都合、と言ってしまえばそれまでですが、僕はそれで済ませたくありません。彼には彼なりの、生きた動機があったんだと思っています。そしてそれは、作品で悪役にされるから。作品で悪役にされるから俺は臆病じゃない。悪人だ。
つまり、人々が彼を怖がって悪人に仕立て上げるから、彼はバッドガイになった。彼自身、知ってか知らずか、きっとこう思っていたんじゃないでしょうか。マーマレード扮する老婆に撫でられて突然目覚めたわけじゃない。あくまであれが契機となっただけで、きっと前からずっと、そう思っていたんでしょう。冒頭であんなことを言っているのですから。
ちなみに、傲慢に反応せず臆病にだけ反応しているのは、それを気にしているからに他なりませんが、それは後ほど。
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1-3.ウルフ:一般人コンプレックスの持ち主?
ところで、こういう視点で見ると、節々に彼のその欲求、普通に暮らしたいという欲求が滲み出ています。例えば冒頭「俺たち人気者とは程遠い」と言うところ。自身を卑下して茶化すということは、内心そうなりたいと思っているからでしょう。
つまりコンプレックスです。ウルフは人気者や一般人にコンプレックスを抱いている。そのコンプレックスの裏返しこそ、バッドガイ。だからウルフはバッドガイの道を選んだ。これがより一層、ウルフの「普通に暮らしたい」という願いを裏付けることになると僕は思います。
→見返してみて思ったのですが、単にウルフはジョークや言葉遊びが好きなだけですね。ただ、他のところから見ても、彼が「普通に暮らしたい」という思いを元々持っていたのは明らかであると思います。
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1-4.補足:ウルフと他のメンバーとの差異
なお、この視点では、他のメンバーとの区別もはっきり為されています。
まず銀行強盗後シーンで、アイスを巡って喧嘩になったとき、彼だけは喧嘩に参加していません。’Animals’と茶化すようにしてソファに向かっています。これは一体何故でしょうか。場外乱闘には一切加わらない、そういうところに他のメンバーとは異なる価値観が潜んでいると捉えるのは、歪んだ見方でしょうか。
→普通に脱獄後のシーンで、ウルフもまた日常的に喧嘩していることを言っていましたね。なんでもないです。
また僕の記憶の限り、前述のような自分自身を一般人と比べて茶化す発言を他のメンバーはしていません。少なくとも、彼ほど強く思っている者は居ない。スネークの激重感情吐露シーンも、邪険にされるという事実をただ述べているだけですからね。もう五回くらい観て確認しなければなりません、が。
あともちろん「物語の都合」と言ってしまえばそれまでですが……。
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2.ウルフは「弱さ」を持っている
さて、この前提を踏まえて考えれば、彼は心の奥底に「弱さ」を抱えていることが分かります。なおここでの「弱さ」とは、完璧に見える彼に潜む脆さ、不安定さ、もっと言えば人間らしさのことを指しています。
そうです。一見、ウルフは完璧です。気丈に振る舞っているし、バッドガイズの中心的存在だし、ドラテクは警察以上だし、盗みに関して一級の腕を持っているし、詐欺や脱税にも精通しているし、頭も切れるし、色気すら放っている。しかしそんな彼の内心には「弱さ」が垣間見えます。「弱さ」があるからこそ、彼はバッドガイのままで居続けたのでしょう。「弱さ」が無いのはダイアン知事ですね。
どうして「弱い」と言えるのか。それは二つの事実から明らかになります。
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2-2.ウルフの「弱さ」を証明する事実①:ダイアンは知事になっている
一つ、ダイアンは自力でグッドガイになっている。これはこじつけかもしれませんが、リアリストなので……。
何もオオカミや蛇だけが差別対象でないことは、ダイアンの台詞から分かります。ダイアンは喧嘩別れシーンの後、ウルフにこう言っています。
「私は後ろ指を指されるずる賢いキツネ」
つまり、キツネもキツネで差別される立場。しかし彼女は自力でグッドガイになり、なんと知事にまで上り詰めました。つまりダイアンは、ウルフがずっと望んでいたことを自力で達成したのです。
確かに、差別対象が知事になるのは大変なことです。その努力は相当なものであったことが窺えます。それでも彼女は成し遂げた。もちろん彼女が天才であり、かつキツネが完全なる悪役というわけでもないこともあるでしょうが、とにかく、差別対象でもダイアンは実際にグッドガイになった。
つまり血の滲むような努力を重ねれば、ダイアンのようにウルフもグッドガイになることが出来た。
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2-2-2.ウルフの弱さ①:自分の願いを裏切って「悪者」のレッテルを受け入れた
そして知事になるような人物については、政治の話題でたびたびメディアに取り上げられますし、彼は新聞を読んでいますから、前々からダイアンのことは知っているはずです。ウルフも当然、彼女の活躍を耳にしたことだと思います。
もちろん、そのときダイアンがクリムゾン・パウであることは知らなかった。しかしキツネでも知事になれる、ということは知っていた。
また、劇終盤、あれほど世間を騒がせておいて、恩赦によって一年で釈放されているところを考えると、たぶんウルフも早々に自首すれば、彼女ほどの地位とまではいかずとも、ある程度再起は可能だったのではないでしょうか。というか、同じ差別対象である彼女経由で立身することくらい、ウルフなら考えられそうですよね。彼は頭が切れるので。
ちょっと話が壮大になりすぎました。何が言いたいかというと、キツネが知事になれるのなら、ウルフも努力すればグッドガイになれたのではないでしょうか。
しかし彼はなれなかった。いや。ならなかった。
言い方が悪いですが、彼は人々が押し付けた「悪者」というレッテルをそのまま受け入れた。ダイアンのようにレッテルを打ち破ろうとせず、自分の願いを裏切って、バッドガイとして生き続ける道を選んでいた。それが彼の「弱さ」です。
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2-3.ウルフの「弱さ」を証明する事実②:仲間に願いを一切打ち明けていない
もう一つ。仲間にこの願いを、これまでに一回も打ち明けたことがない。あるいは、既に諦めたこととして考えられていて、今だに願っていると誰にも打ち明けていない。
収監時、ウルフの告白に対する仲間の驚きよう。グッドガイになるかもしれないというところでようやく、親友たるスネークに詰問されていること。普通に暮らしたい、人々に受け入れてほしい、なんて一言も言ったことがないんでしょう。それか、既に諦めたものとして考えられていたか。
つまり、あの善の祝祭で初めて、ウルフは仲間にグッドガイの側面を、しかも盗みを失敗させるという形で見せたことになります。確かに裏切りにも見えますよね。
しかし彼にとって「裏切り」なんて言葉は似つかわしくない。結果としてそうなってしまっただけで、彼は最初から最後まで仲間を大切にする性格です。それなのに、なぜ彼は一切、その願いを打ち明けなかったのか?
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2-3-2.ウルフの弱さ②:仲間を「友達」だと思えなかった
たぶん、彼は仲間を信じられていなかったのだと思います。
そのヒントは、最終盤、落下シーンにあります。彼は「絶交されると思った」ことをスネークに言われ、認めています。つまり彼は親友のスネークにすら、グッドガイになりたいと言ったら絶交されると思っていたのです。
確かにスネークはそれに近いことをしています。が、それはウルフが唐突に「裏切り」を見せたからであって、ちゃんと順を追って自身の願いを話していれば、流石に良い年した男がダダをこねることは無いでしょう。それでもウルフは一切話せなかった。どうしてもスネークを失いたくなかったから。
いいえ。自分が正直に話すことで、スネークは離れていくと思っていたから。つまり仲間ですら、スネークですら、ありのままの自分を受け入れてくれるとは思っていなかったのです。
そして悲しいことに、彼は彼自身の中で、それに気づけていません。仲間を大切にしています。仲間を大切にしているからこそ、ウルフは言い出せなかったのです。失いたくなかったから。正直に話せば離れていくと思っていたから。
こうも言えます。彼は仲間を仲間だと思っていたが、決して友達だとは思えていなかった。あくまでバッドガイズのメンバーであって、友達では決して無かった。そしてそれに気づいていないことが、彼の「弱さ」です。
こう考えれば、ダイアンの慰める台詞はより一層意味を持ちます。ダイアンは彼をこう慰めます。
「彼らが本当の友達なら、きっと戻ってくる」
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2-4.仲間、そしてスネークへの想いは「弱さ」そのもの
要は、ウルフの「弱さ」は三つ。
第一に、自らの願いから目を背けて、バッドガイのままで在り続けた。
第二に、仲間を奥底で信じられていないがために、自らの願いを打ち明けられなかった。
第三に、この二つのいずれも、自覚できていなかった。
さてここで、こういうことが考えられます。仲間を大事にしていたから、バッドガイとして生き続けていたのではないか?
確かにその側面は大きいと思います。リーダー的存在であるからこそ、自分がバッドガイとしてバッドガイズを守らないといけない。またバッドガイズの仲間と居るのが充実しているから、このままバッドガイとしての人生をまっとうするしかない。スネークが居るから、俺はバッドガイで在り続けなければならない。
しかしそれもまた「弱さ」ではないでしょうか。結局、彼は自身の願いを踏みにじっているのです。それも自身の手で。自分の願いに見て見ぬふりをするのは、自分から逃げているのと変わりません。
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3.ウルフの「弱さ」とは何か?
では、ここでの「弱さ」とは一体何でしょうか?
僕はただ「弱い」とだけ言っていましたが、その弱さはどういう類の「弱さ」なんでしょうか?
これは僕の勝手な想像です。描写も特にありませんが——表面的には、現状の喪失に対する恐怖なんだと思います。彼は失うのが怖いのです。バッドガイである自分を、バッドガイズの仲間を、そして唯一無二の友人であるスネークを失うことが怖い。怖いから「普通に暮らしたい」という願いを無意識に抑えつけて、バッドガイのままで居る。
だからダイアンに言わせてみれば「臆病」なのです。恐怖に向き合わないこと、それが臆病ですから。そして彼は無意識に、それに気づいている。だからこそ臆病にだけ反応したのでしょう。
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3-2.ウルフは孤独だったのか?
いや、それは不正確であるような気もします。もしかしたら彼は——自分自身を否定されるのが怖いのかもしれません。
改心したところで人々に受け入れられなかったらどうしよう。打ち明けて仲間に拒絶されたらどうしよう。誰かに真の自分を否定されたらどうしよう。それが怖いから、ダイアンのようにグッドガイになることも、仲間に真意を打ち明けることも、自分自身が改心するきっかけを作ることもなく、無意識に恐怖から逃げて、悪事に没頭して、さらに恐怖から逃げていた。そういうことも考えられるかもしれません。
それをこうも言い換えられます。孤独への恐怖。ウルフは、独りが怖いのかもしれません。
いや、そもそもウルフは孤独だったのではないでしょうか。だって彼には「友達」が居なかったのだから。大切な仲間に囲まれながら、誰一人本心を明かすことも出来ず、自らの願いを裏切ってバッドガイで在り続ける。それが孤独でなくて、一体何だと言うのでしょう?
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3-3.ウルフの「弱さ」は結局何か?
ただ、何が「弱さ」かは、正直まだ分かりません。今回は彼の「弱さ」を抽出することだけにフォーカスしているので、彼の何が「弱さ」なのか、明確に述べることが出来ません。
それに、ここではミスター・スネークのことも置き去りにしています。ウルフはスネークに対して、明らかに異質な感情を持っています。これは果たして他の要素に含めて説明されるものなのか。それとも、何らかの独立した要素なのか。それも気になるところです。
もう少し慎重に考えたほうが良さそうです。なので、彼の言動についてもう少し考察を加えて、根底に眠る彼の意識をもう少し明瞭にしたいと考えています。
そこで明日は、その一部として、彼が怒りを覚えたことにフォーカスし、「ウルフは何故/何に怒りを覚えたか?」を考えてみたいと思います。
長くなりましたが、また明日。