まどどブログ

普通の二十代前半男性が、夢を見るか、破滅するか。そんな人生ドキドキギャンブルの行く末を提供しています。

2022.11.09 『バッドガイズ』ミスター・ウルフについて③ / 彼は何故怒りを抱くか?

2022.11.09

 

 夢にまでウルフが出てきた。やっぱり僕は彼が大好きなようです。

 

  • 0.昨日のおさらい

 昨日はミスター・ウルフの怒りについて見ていきました。

 彼が怒りを覚えた部分は四箇所あり、それぞれの要因に私は着目しました。そして最後の場面、ウルフがスネークの詰問に対して怒りを顕にする場面について明確な答えを出せず、昨日は幕を閉じました。

 なので今日は第四の場面について考察するとともに、ウルフは何に、そして何故怒っているのか、総括したいと思います。

 

 

  • 1.ウルフはなぜ「そうかもな!」と言ったのか?

 さて、ウルフはなぜ、「仲間もお荷物か?」というスネークの問いに対して「そうかもな!」と言ってしまったのでしょうか。

 昨日、私はいくつかの点が複合的に働いたもの、と解釈しました。自分の願いを他のメンバー、特にスネークが受け入れてくれないことへの悲しさ。仲間が離れていくことへの焦り。などなど。

 それはたぶん、正しいのですが、完全ではありません。何故か。ウルフが「お荷物か?」というところで怒りを覚えている以上、それそのものが怒りの契機であったと考えるべきだからです。

 では、ウルフはなぜ「お荷物か?」に反応したのでしょう。それはきっと、彼が動揺していたからだと思います。

 昨日も述べましたが、ウルフは怒りの前、スネークの詰問に対して、ある種の葛藤を覚えていました。それはバッドガイズの仲間か自分か、そのどちらを取るか、というものです。

 自分はグッドガイになりたい。しかし、仲間はそれに共感してくれない。それどころか、唯一無二の大切な人であるスネークは自分の行為に怒りを抱いている。だから自分がグッドガイになったら彼らは離れていく。この対立軸が、彼を苦しめ、彼を内心で動揺させています。

 そこでスネークが「俺たちもお荷物か?」と問います。流れからして「お前は俺たちもお荷物だと思っているんだろう」と暗に指摘していることになります。

 ただ、仲間はウルフにとっていつでも大切な存在です。「そうかもな!」ですら本心でないことは、脱獄後に「俺たちが居る」と仲間意識を依然として持っているところからも明らかです。それをスネークは否定してしまうわけです。

 そのとき彼は、誰も自分の願いを聞き入れてくれなくて、仲間も離れてしまいそうで、それでも自分の願いを叶えたい。既にそういう動揺の最中でした。そこで自分が大切に思っているものを否定されてしまったら、動揺は更に加速します。激しく揺れ動く心に耐えきれなくなって、結果的に反射的に反抗してしまったんだと思います。

 

  • 2.ミスター・ウルフは総じて何に怒っていたか?

 さて、これでウルフの怒りについて考察が出来ました。では、一貫して彼は何に怒りを覚えているのでしょうか?

 大きく分けて二つあると考えます。

 一つ、自分の「弱さ」そのものに対する怒り。

 一つ、自分自身の否定に対する怒り。

 ただし、これは誰にでも当てはまることだと思います。誰でも自分の「弱さ」を認めたくないし、自分自身を否定されたくはない。

 彼の怒りの特徴は、何に、ではなく何故、にあります。

 

  • 3.ミスター・ウルフは何故、怒りによって何を隠したかったのか?

 彼は何故、怒りを覚えているのでしょうか。

 直接的な原因は様々考えられるでしょう。侮辱されたからだとか、自身を否定されたからだとか。しかしそれでは、彼の心理に迫ることが出来ません。

 なのでここでは間接的なところを探ってみたいと思います。流行り言葉では、怒りを第二感情と捉えて裏に隠れている感情を探る、ということです。

 わかりやすく言い換えましょう。彼は何故「怒り」というものを発するに至ったのでしょうか。彼にとって、「怒り」とは、どういう役目を持つのでしょうか。彼は怒りによって、何を隠したかったのでしょうか。

 それはたぶん、「弱さ」です。無意識の中で自分の「弱さ」を覆い隠すため、彼は怒るのです。

 彼が怒っている場面を振り返ってみましょう。第一の場面は誰でも腹立たしく思うものなので置いておくにしても、どれもこれも、悲しみや不安といった「弱さ」が垣間見えることだと思います。

 第二の場面、ダイアンに諭される場面では、人々によって悪役に仕立て上げていることへの悲しみ。第三の場面、マーマレードにブチギレる場面では、作品通りのステレオタイプになってしまった現実への激しい悲しみ。そして第四の場面では、仲間が受け入れてくれない悲しみや、仲間と自分の二者択一を迫られていることによる動揺。

 このようなとき、彼は怒ります。彼は嘆きや悲しみ、不安といった「弱さ」を曝け出すのではなく、意識せず怒りへと変えてしまうのです。

 これが彼の怒りのメカニズムです。彼は自身の「弱さ」を怒りに変えます。そして「弱さ」を隠します。無意識のうちに。

 

  • 3-2.怒らない特徴的なシーン:スネーク裏切りシーン

 これを逆説的に証明しているのは、スネークの裏切りシーンです。スネークがマーマレードと手を組み、さらに情報を漏らしたという事実*1を聞いてもなお、ウルフは怒りを顕にしていません。睨みながら皮肉を述べているだけです。

 僕は最初、理解できませんでした。裏切られ、それが原因で拘束さえされているのに、何故ウルフは怒らないのか?

 もちろん、スネークは喧嘩別れしたわけで、裏切りにも一定の説得力があります。あるいはスネークの考えを元々尊重していて、スネークの考えなら仕方がない、あるいはスネークに何か考えがあるはずだ、と思っているのかもしれません。

 しかし、それでも普通、裏切りは腹立たしいものです。スネークが怒りを見せたように。それでもウルフは怒っていません。なぜでしょうか?

 ウルフが怒りを「弱さ」の隠れ蓑としているなら、説明は可能です。スネークの裏切りは彼の「弱さ」ではないから、ウルフは怒らないのです。確かに、間違いなくスネークは彼の弱点です。それでも、ウルフ自身が内側に抱えている、悲しみや不安といった「弱さ」ではありません。だから彼は怒らない。皮肉を言って自らの「強さ」を誇示するのです。

 ただ、ここで一つ疑問が浮かびます。スネークに裏切られた、という悲しみは怒りに変わらないのか?

 それは既に、脱獄直後に消化されています。彼はダイアンの車内で怒りと悲しみを爆発させ、ダッシュボードあたりを殴っています。その後ダイアンの慰めによって、既に「自分は正しい、きっと彼らなら戻ってきてくれるはず」と確信しています。

 つまり、既に仲間たちとの別れによる悲しみは既に彼の中で消化されているのです。スネークが裏切りを見せたところで、それほど動揺するものではないでしょう。既に消化されている感情ですから。

 

  • 4.次回予告:ミスター・ウルフとは誰か?

 さて、二日に渡って彼の「怒り」について考察することで、彼の「弱さ」とは何か、だいたい掴めたような気がします。

 彼の「弱さ」。それはたぶん。

 人々が、そして彼自身が自らに課している彼の人物像。オオカミという強くて悪いやつ。そこからの離反です。

 彼という人物像について、明日は迫ってみたいと思います。

 

  • 5.その他備忘

・冒頭場面を見返していたら、彼は

「俺が大きくて悪いオオカミだからだ!」

と言うその直前、眉を垂れて下を向くという、わりと悲しそうな顔をしていることに気づきました。やっぱりずっと嫌だったんじゃないか。他のメンバーのように割り切れていなかったんでしょうね。だからこそ、マーマレードに難なく利用されたのかも。

・ウルフは最初から「普通に暮らす」ことの実現だけを目的に、マーマレードやダイアンを利用しようとしたのかもしれません。盗みは方便で、他のメンバーに「普通に暮らす」という体験をしてもらい、自身の願いに気づいてもらうように仕向けた、とか。メンバーに問われてちょっと言い淀んでいるところが思わせぶりですが、流石に考えすぎかしら。

*1:ちなみに、ここでマーマレードが得た情報とは「ウルフが脱獄し、ダイアンと共にマーマレードを倒しに行く」ということだと思います。ウルフはスネークに対し、マーマレードの家に行くとは一言も言っていませんから。