2022.11.12
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0.昨日のあらすじと今日の流れ
昨日は眠かったので、劇中の小ネタについて触れていきました。
さて、本日はミスター・ウルフの人物像について迫ってみたいと思います。
まずは彼の内面と、彼の「弱さ」について。
- 0.昨日のあらすじと今日の流れ
- 1.彼の「弱さ」:彼の外面からの離反
- 2.彼の外見:クールでキザな仲間思いの悪いオオカミ
- 3.ウルフの心情と言動の不一致、そしてそれを示す三つの事柄
- 4.ウルフの「弱さ」とは何か、そしてウルフは「弱さ」を殺した
- 5.ウルフは「弱さ」を殺す性格?
- 6.他人に素直で自分に素直じゃない、繊細なウルフ
- 7.まとめ
- 7.次回予告
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1.彼の「弱さ」:彼の外面からの離反
ここ数日間、ミスター・ウルフが抱いていた願い、彼の「弱さ」、そして彼の怒りについて考察を加えてきました。そして、その中で彼の「弱さ」が具体的に何か、は触れずに進めてきました。
今日はついに、その「弱さ」の正体について触れたいと思います。
彼の「弱さ」。それは、彼が人に見せている人物像、そこからの離反です。
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2.彼の外見:クールでキザな仲間思いの悪いオオカミ
まず、彼が人に見せている姿について整理します。
彼の他者に対する態度は基本的に一貫しています。それは、クールでキザな仲間思いの悪いオオカミ、です。
これについて異論のある方は居ないでしょう。バッドガイズのリーダー的存在で、スネークと仲間を何より大切にしていて、なおかつ犯罪計画の立案と実行の中心的人物であり、冷静沈着で、頭が切れ、ユーモアにも溢れ、かつ自意識過剰気味。盗みのためとは言え、ダイアンの手の甲にキスをしてダイアンを困らせる。窮した挙げ句、お色気作戦を実行する。まさしくクールでキザな仲間思いの悪いオオカミそのものです。
少なくとも、彼は劇中でそのような人物として描かれていますし、他者から見た彼はきっと、そういう人です。善の祝祭で改心するまではね。
では、内面はどうでしょうか?
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3.ウルフの心情と言動の不一致、そしてそれを示す三つの事柄
私の考えうる限り、彼が内心抱いたことと、実際の行動とはまるで一致していません。少なくとも、一致していないことが多い。劇中だけでも、そう捉えられることが三つあります。
一つ目。2022.11.07の記事で明らかにしたように、冒頭から一貫して彼は「普通に暮らしたい」という願いを抱えており、それは冒頭から節々に現れています。しかし、ベッドシーンでのスネークの「普通に暮らすなんて考えたこともない」という台詞や、他のメンバーの反応からして、恐らくそれを他のメンバーに話したことはありません。願いを抱きながら一切話していないのです。
なお、これに関する議論については、以下の記事をご覧ください。
二つ目。善の祝祭のとき、彼は「グッドガイになるか否か」という葛藤を抱いていたにも関わらず、特にメンバーに相談することもなく、いつも通り犯罪計画を立案して仲間に披露した上で、遂行手前まで進め、そして最後の最後でひっくり返します。
そもそも、このとき親切なことにスネークは「計画を変更するなら相談してくれ」と事前に言ってくれています。相談することは出来たし、実際相談すれば良かったのに、彼は「元に戻ろう」と呟いて自分の葛藤を押し殺し、黙って計画を進め、そして勝手に中断させます。めちゃくちゃです。
三点目。彼は、2022.11.09の記事で明らかにしたように、基本的に「弱さ」を怒りに変えます。弱音を吐いたのはダイアンの車内だけです。バッドガイズのメンバーの前では一切「弱さ」を見せていません——スネークを除いて(これについては一本記事が書けるので、また後日。)。落ち込む素振りすら見せないのです。
→そういえば、逮捕時の輸送車や輸送船の中で明らかに落ち込んでいたのを思い出しました。まったく見せていない、というのは言い過ぎにしても、あまり見せない性格であるというのは言えると思います。
強いて言えば、署長に隕石を返す直前でスネークのことを思い出し、ため息をつくシーンですが、あれも「弱さ」とは言えないでしょう。仲間思いのウルフの外面そのものです。
なお、これに関する議論については、以下の記事をご覧ください。
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4.ウルフの「弱さ」とは何か、そしてウルフは「弱さ」を殺した
この三つの事柄から考えられることは何でしょうか。
それは、彼が「弱さ」を持っていながらも、それを見せないようにしているということです。
一見完璧な彼も、内心では「弱さ」を持っています。そして、ここでの「弱さ」とは、周囲に見せている「クールでキザな悪いオオカミ」という人物像と相反するもの、つまり葛藤や不安、悲しみなどです。
もちろん「弱さ」は誰でも持ち得ます。誰でも葛藤や不安を抱きます。しかし彼はそれを他人に見せません。あるときは黙って独り思い続け、あるときは葛藤を押し殺し、あるときは怒りに変え、彼の中に芽生えた不安、葛藤、悲しみをすべて潰しています。
自身の「弱さ」を押し殺して、クールでキザな悪いオオカミで在り続ける。これが彼の最大の特徴であり、他の登場人物には決して見られない個性です。彼は自分の「弱さ」を受け入れられなかったのです。だからこそ、彼は大切な仲間にさえ、唯一無二の存在であるスネークにさえ、自身の願いや悩みを打ち明けられず、あくまでリーダーとしてクールにキザに振る舞っていたのでしょう。
ちょっと論理の飛躍があるでしょうか。そうかもしれないが、実際この解釈で作品を見返してみても、何の矛盾もありません。むしろ多くの点で腑に落ちる部分があります。たぶんこれが彼の内面そのものです。
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4-2.「弱さ」の言い換え:人に導いてもらうこと
ちなみに「弱さ」はこうも言い換えられます。他者を求めること。他者に導いてもらうこと。他者に助けてもらうこと。
あるいは、自分に素直になること。
ウルフはこれをずっと押し殺してきました。つまり彼はずっと助ける側、導く側に立っていて、助けてもらうことも導いてもらうことも無かった、とも言えます。
仮に劇中の行動がすべてに適用できるなら、彼は一切弱音を吐いていないことになります。弱音を吐くこともなく、悲しみや葛藤をすべて怒りに変えるような人間というのは、一見強く、誰かの助けも要らないように見えます。しかし彼の場合、それは単に「弱さ」の裏返しでしか無いわけです。
でも、他のメンバーがそう思っている素振りもないですよね。スネークがなんだかんだ愛されイジられているのとは決定的に異なります。ウルフはあくまで「リーダー」です。
そう考えると、もしかしたら彼はずっと導く側で、導いてもらう側に居たことは無かったのではないでしょうか。バッドガイズのリーダーだからなのか、彼自身がそうしてしまったのか。それは分かりませんが。
ところでスネークと言えば、2022.11.10の記事で、私はスネークの個性について「弱さ」——つまり他者の求め、他者の導きを顕にしていることだと指摘しました。ウルフはスネークと反対に、知ってか知らずか「弱さ」を押し殺してきたのです。
だからこそ、最後の場面が意味を持つわけですね。まあ、これはまた後日。
なお、この記事は以下のものです。
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5.ウルフは「弱さ」を殺す性格?
ではそもそも、なぜ彼は「弱さ」を押し殺しているのでしょうか。
劇中の描写が一切無いので、はっきりとしたことは言えません。ただ多分、彼の性格上、自分に「クールでキザな悪いオオカミ」という像を強制してきたから、でしょう。
これを考える上でヒントになるのは、彼がバッドガイである理由です。
2022.11.07の記事でも明らかにしたように、彼がバッドガイであるのは、ただ単に「人々の評価」です。自分は普通に暮らしたい。しかし人々は自分を怖がっている。だから自分は悪役として生きるしかない。そういう理由でしか、彼はバッドガイとして動いていません。
現に、彼は自身や仲間について述べるとき、周囲の評価について触れることが多いように思います。「どの作品でも悪役」「人気投票じゃ勝てない」「人々が受け入れてくれるなら、もちろんそうしてほしい」「配られた手札で今を楽しむしかない」と、彼が人々の自身に対する評価について触れる台詞は枚挙に暇がありません。原作のオマージュの域を明らかに越えています。もはや卑屈のレベルです。
つまり彼は望んで悪役になっているのではなく、あくまで仕方なく悪役として生きているのです。そして本人自身、それを強く自覚しています。自覚しながらも、彼はずっとバッドガイとして生きてきたのです。
主人公であるからそういう台詞が多くなる、ということを考慮しても明らかに異常です。ピラニアたちにそういう周囲のことを気にした台詞は無いですし、スネークとて「俺は嫌われる怪物だ」と事実ベースで述べているに過ぎません。ウルフだけが今でも「周囲に押し付けられた悪役」ということを強く認識しているのです。
それはもはや信念に近いものです。彼は周囲の評価を自身に当てはめて生きてきた。
だから、このように言えます。彼はけっこう、自分自身の願いや望みを軽視し、外聞や評価を気にするところがあります。むしろ囚われている、と言ってもいいかもしれません。
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5-2.ウルフは何故「弱さ」を殺すか?
この性格を考えれば、恐らくウルフが今まで自分の「弱さ」を押し殺してきた理由も簡単に導けます。彼は「クールでキザな悪いオオカミ」を自らに課していて、それに背く感情を自動的に排除してきたんだと思います。
それはバッドガイとしてでもあり、バッドガイズのリーダーとしてでもあり、悪いオオカミとしてでもあり、スネークの相棒としてでもあり。色々な側面があるでしょう。とにかく、彼は「クールでキザな悪いオオカミ」で在り続けるために、自身の「弱さ」を表に出さないようにしていたのです。
でなければ、悩みをスネークにすら打ち明けられないことは考えられません。普通、唯一無二の相棒が「計画に変更があるなら相談してくれ」と言ってくれているのに、「普通に戻ろう」と念じて自身の葛藤を押し殺すものでしょうか。自らの外面に無理やり合わせようとしているからこそ、自分の「弱さ」を押し殺してしまうのです。
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6.他人に素直で自分に素直じゃない、繊細なウルフ
以上の議論から、彼の内面についてはこうも言えます。
ウルフは他人に対して素直だが、自分に対しては徹底的に素直じゃない。スネークとは真逆ですね。スネークは他人に対して素直でないが、自分に対してはわりあい素直です。ウルフへの思いとかね。
ウルフはどうして自分に対して素直じゃないのか。素直になれないのか。それは正直、一切分かりません。考えやすいのはリーダーとしての責任感とかでしょうが、それで説明できるようなものとは思えません。明らかに異常です。生い立ちとかが関係しているのかな。
ただ間違いなく言えるのは、彼はとても繊細です。
何度も言いますが、他のメンバーは彼ほど「普通」と「外聞」に囚われていません。既に諦めているんでしょう。彼だけがバッドガイズのリーダーでありながら、あれほどクールでキザなオオカミを演じていながら、内面では「普通」と「外聞」に囚われ続けていたのです。繊細そのものでないでしょうか。
むしろ、ウルフのような一見完璧な人間がいちばん繊細であるというのが、この作品を最も面白くしているところのように思います。
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7.まとめ
簡潔にまとめましょう。
ウルフは強い自分、クールでキザな悪いオオカミという像を、自らに課してしまったんだと思います。そのため、自分の「弱さ」を表に出すことが出来なかった。
だから改心してもなお、仲間に悩みを打ち明けられず、自身の葛藤を押し殺し、スネークの「相談してくれ」という言葉も蔑ろにし、結果として犯罪計画と犯罪集団としての「バッドガイズ」を破綻へと追いやってしまったのです。
それが結果として彼を救う手立てになったというのは、何とも逆説的ですね。
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7.次回予告
さて、今日は彼の内面についてフォーカスして述べてきました。
では、明日は彼の人物像について簡単に整理した後、彼のある行為について考察したいと思います。
「何故ウルフはスネークに ‘I love you.’ と言えなかったのか?」
また明日。