2022.11.13
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0.昨日のおさらい
昨日はウルフの内面について迫りました。その中で、彼の特徴として
・「弱さ」を見せない傾向がある
・「悪いオオカミ」という人物像を自分に押し付けている傾向がある
→他人に対して素直でありながら、自分に対して素直になれない
というところがあると明らかにしました。
さて本日は、今一度ウルフの人物像を、外面・内面ともに整理した上で、彼がなぜ最終盤でスネークに「愛してる」と言えなかったのか……の前に、彼が一体「弱さ」を見せ始めるのはいつからなのか、示したいと思います。
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1.ウルフの外面——劇中から明らかに見て取れる彼の人物像
まず、彼が劇中でどういう人物として描写されているか整理します。
言い換えれば、彼の外面について。彼が他者にどういう人物像を見せているか。
・頭が切れる
間違いなく切れ者です。逮捕された状況でもなお、それまでに得た情報を整理し、その中で現状打開の最善手を見出すほどです。
・仲間思い
スネークへの異様な思いやりを含め、仲間というものをとても大切にしています。彼の台詞の中に何度も「仲間」が出てくる時点で明らかです。
・クール、若干キザ
バッドガイズのリーダーであり、また言動も非常にクールです。彼の言動は、堂々たる怪盗そのものです。
ただし、お色気作戦を実行するなど、若干鬱陶しいところもあります。例えばダイアンの手の甲にキスしたとき、ダイアンは明らかに引いていました。いくら盗みのためとは言え、一般的に考えられないことを彼はしてしまいます。
個人的には、普段Yシャツの裾が片方出ているのも、なんとなく彼の鬱陶しさが感じられて好きです。
・たまにドジを踏む
マーマレードに撫でられて良いゾクゾクを覚えてしまったからかは分かりませんが、彼はたまにドジを踏みます。
黄金のイルカを奪う際にスネークを危うく掴みそこねたり、ダイヤを落として危うくレーザーに消されかけたり、ダイアンの「嘘を吐くのに疲れない?」という質問に「いいや」と答えてしまったり。色々とドジを踏んでいます。
・マイカーへの拘り
脱獄後自分の車見るなり抱きついていたこと、またシャークが車をぶっ壊したときに絶叫していたことから、マイカーを愛していることが見て取れます。
・抜群のドライビング・テクニック
マジで上手い。特に荷重移動がめちゃくちゃ上手い。あんな強力で重量のあるFRマシンを、よくもまあ華麗に操れるものです。
・その他(好物など)
彼の好物については明示されていませんが、Tボーンステーキを食べていた形跡があることや、彼の台詞から、ごく普通に肉やケーキが好きなんじゃないでしょうか。少なくともモルモットを食べることは無さそうです。
・口癖
明らかに ‘ SO LONG, SUCKERS’ ですね。よくあるスラングなのかもしれませんが、彼が言うとかっこいい。
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2.ウルフの内面——劇中から推察される彼の性格・個性
次に、彼が劇中で見せた矛盾や動揺、言動、仕草などから、私なりに解釈した彼の性格について述べたいと思います。つまり、彼の内面です。
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2-1.他者を否定しない
劇中で彼は、他者を否定したことが一度もありません。ダイアンのバッドガイズに対する展望も、ダイアンの好みも、仲間たちの意見も、否定したことは無いのです。スネークに「仲間はお荷物か?」と問われ逆ギレするときでさえ、「そうかもな!」と曖昧にするほどです。
もちろん自身の考えが違う形で解釈されたときは否定します。例えばスネークが「本当に仲間を切るとは」と言ったときに彼は明確に「違う」と言っています。ただし、彼は他者そのもの、例えば他者の好みや自身に関係しない意見を否定することがありません。つまり彼は「他者を否定しない」性格であると判断すべきだと考えます。
これも彼の魅力の一つです。普通、人間は相手の意見が自分と異なる場合、否定してかかります。否定しないのは難しいことなのです。しかし彼にはそれが出来ます。だからこそ、彼は色々な人に好かれるのでしょう。お色気作戦を実行できるのも頷けます。かっこいいしね。
唯一、スネークの誕生日嫌いについて冒頭で「誰でも誕生日は好きだろ」と婉曲的に否定していましたが、それはスネークが本当は仲間に祝われることを楽しみにしている、と知っていたからこその発言でしょう。
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2-1-2.なぜウルフは他者を否定しないのか?
ところで、なぜ彼は他者を否定しないのでしょう。描写が一切無いので分かりかねますが、案外「弱さ」を押し殺すのと関係があるように思えます。例えば、彼は心底優しく、相手や現状を否定することで誰かを傷付けてしまうのが怖い、とか。
もっとひねくれた見方をすれば、そもそも彼自身、自分から人が離れていくのが怖いのかもしれません。その裏返しとして誰も否定しない。そして人を引き寄せている外面の「自分」を守るため、自分自身に一向に素直になれず、それに逆らう「弱さ」は押し殺してしまう、とか。
分かりませんけどね。ヒントになる描写が無いので、妄想の域です。彼の生い立ちが分かれば、ちょっとは議論の余地もあるのですが。案外、人の性格を形作るのは生い立ちだったりしますから。
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2-2.「悪いオオカミ」という人々の評価から抜け出せずに居る
前々から散々述べているので簡単に触れますが、彼は他のメンバーより遥かに強く、自身の現状について「押し付けてられた悪役」と考えています。それでも彼は悪役から抜け出せずにいましたし、その思いを誰かに見せることもありませんでした。
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2-3.「弱さ」を見せない、押し殺す
昨日述べたので簡潔に。
彼は「弱さ」、つまり自身の不安や動揺、悲しみなど、誰かに助けてほしい自分の側面というものを殆ど他者に見せません。押し殺している描写さえ劇中に見えます。こうして、彼は自分に素直になれないまま、「クールでキザな悪いオオカミ」という人物像を——意識的か否かはさておき——演じ続けています。善の祝祭で完全に改心するまで。
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3.彼が「弱さ」を見せ始めるのはいつからか?
さて、「弱さ」を押し殺してきた彼ですが、劇の中盤からいつの間にか「クールでキザな悪いオオカミ」という彼の像が崩れています。彼はキザなばかりでなく、途中から明らかに動揺を見せ始めるのです。それはいつからでしょうか?
私が思うに、善の祝祭からであると思います。ダイアンと目線が合ったとき、ウルフは彼女を避けるように遠くへ離れていきました。彼が仮に「クールでキザな悪いオオカミ」なら、あのまま挨拶の一つや二つ交わすのが自然です。しかし彼はそうしませんでした。
また、その後ダイアンに話しかけられたときも明らかに動揺しています。一応取り繕ってはいるものの、彼らしくないと言えば彼らしくありません。
このあたりから、徐々に彼の「クールでキザな悪いオオカミ」という人物像を取っ払っていく経過が見て取れます。言い換えれば、善の祝祭から、彼は自身の見せていた人物像を崩していくのです。
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3-2.ダイアンを避けた理由と「悪いオオカミ」としてのウルフの消失
では、彼は何故、ダイアンに動揺を見せてしまったでしょうか。
犯罪を遂行していることの後ろめたさがあったから。それは間違いないでしょう。
しかし彼の純粋な性格を考えれば、犯罪の中で後ろめたさを感じる場面はいくらでもあったはずです。彼はその後ろめたさを覆い隠し、卒なく犯罪をこなしてきたことでしょう。お色気作戦を実行するほどの人間ですから。
それでも彼は善の祝祭でダイアンを避け、ダイアンに声を掛けられたときは明らかに動揺していた。では、彼は何故、そのときダイアンを避けてしまったのでしょうか。何故ダイアンに対して動揺を隠しきれなかったのでしょうか。
単純に考えれば、あのときから彼の中で何かが変わっていた、と捉えるのが妥当でしょう。あの場面において、彼はダイアンの期待とは裏腹に犯罪計画を進めていることになります。それはつまり、ダイアンを騙していることになります。それを彼は耐え難く思った。だからダイアンを避け、その事実から目を背けた。そして彼女に話しかけられたとき、彼はその事実と向き合うことになり、動揺した。
この「相手を騙すことが耐え難い」という感情こそ、彼が変化しつつあった証左です。彼はマーマレードの「実験」を通して、確実に変わっていたのです。だからこそ、彼は「悪いオオカミ」という人物像から、徐々に変化していった。
ともかく、彼はあの場面で「ダイアンを騙すことが耐え難い」と思った。だからこそ、彼はダイアンを避けたし、ダイアンに話しかけられて動揺を隠せなかった。のだと思います。
そして彼の「悪いオオカミ」という人物像は、あのダンスシーンを通して完全に失われることになります。
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4.次回予告
なんだか書いているうちによくわからなくなってきました。
ちょっと考えて、明日は「なぜウルフはスネークに「愛してる」と言えなかったのか?」について述べたいと思います。
それでは、また。