2022.12.08
- 「最後の上映館」はどこに?
- 「最後の上映館」攻防①:TOHOシネマズの撤退
- 「最後の上映館」攻防②:上映館の特性の偏り
- 「最後の上映館」攻防③:数少ない上映館たちの最後の攻勢
- 「最後の上映館」攻防④:コアなファンと都心
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「最後の上映館」はどこに?
ほどほどに人気な映画には、必ず「最後の上映館」が存在する。ある映画を細く長く上映している、たった一つの映画館のことだ。
例えば『プロメア』に対するチネチッタ。一年近く上映し続けていたような記憶がある。恐らく「最後の上映館」となることによって想定する観客層やコアなファンを独占し、継続的に動員を稼ぎ続けるという戦略なのであろう。
そして私はこの度、その「最後の上映館」を巡る攻防を目の当たりにすることとなった。『バッドガイズ』によって。
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「最後の上映館」攻防①:TOHOシネマズの撤退
「最後の上映館」を巡る攻防戦には、大きく以下のような段階で進んでいく。
第一段階。TOHOシネマズが上映を終了させる。彼らの損切りは早い。あくまで個人的な感触として、あのブランドは、話題が少しでも薄まってきたら真っ先に上映を打ち切る。他の映画館ではしぶとく上映されているようなものでも、あのブランドだけはやっていない。そういう場面をこれまでも多く見たような気がする。
今回の『バッドガイズ』とて同様だ。子会社が配給元であるというのに、封切り五週間で完全に、しかも一斉に、字幕も吹替も差別なく終了させ、『すずめの戸締まり』というビッグイヴェントへとシフトした。慈悲がない。
余談だが、あのとき、忘れもしない11月10日、は絶望したものだ。二度と観られないと思ったし、円盤も急いで購入した。あれから一ヶ月以上続けているわけだが……。
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「最後の上映館」攻防②:上映館の特性の偏り
第二弾階。上映館の特性が偏ってくる。誰を主眼に据えた映画か。実際に映画が誰に見ているか。観客は映画に何を求めているか。それらが分析されてくるのか、上映館が絞られてくるタイミングで徐々に上映館の特性に偏りが見られるようになる。
例えば『バッドガイズ』は明らかにファミリー向けの映画である。つまり子育て世帯の多く住まうような地域で上映されることが望ましい。そのため終盤に差し掛かると、上映館はどこもそういうところに限られていた。千葉ニュータウンや台場とか。工夫されている。
ちなみに日比谷はその対極で、子供の観賞を想定していないものばかり上映している。これもこれで興味深い。
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「最後の上映館」攻防③:数少ない上映館たちの最後の攻勢
第三段階。上映館ごとの試行錯誤が垣間見えてくる。
上映館が絞られているような映画というのは既に「一般人気は終わった」作品であるため、そこまで需要が見込まれるものでもない。『プロメア』のような宗教じみた支持を得ているならばまだしも、普通はせいぜい一日一回が限度である。また他の人気作品の枠を奪わないように調整もしなければならない。ここで時間帯や曜日に工夫が見られ始める。そしてこの工夫の巧拙が「最後の上映館」の雌雄を決する重要な鍵となる。
今回の『バッドガイズ』では最終的に、千葉ニュータウンと台場の映画館が残っていた。彼らは上映日を土日に限定した。そして何と、前者は上映開始時間を午前七時にした。後者は午後一時である。この映画の想定する観客層はファミリーだ。どちらがファミリーという顧客を獲得し得るであろうか?
実際、千葉ニュータウンは淘汰され、最終的に台場が残った。こうして「最後の上映館」は決定されたのであった。
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「最後の上映館」攻防④:コアなファンと都心
ちなみに、都心に近いというのも「最後の上映館」には重要な要素であるように感じられる。
そこそこ人気な映画には、確実と言っていいほどコアなファンも存在する。そしてそういう人は場所に問題がなければ絶対に来る。『プロメア』はコアなファンの量産に成功した好例である。あの映画は同じ人が何回も見て周囲に布教し続けたからこそ、十五億円という記録を叩き出したのである。
逆に言えば、場所に問題があれば彼らは来ない。いや、来られない。あまりに遠い場所で上映されていたら、いくらその作品を愛していようとも来られないのだ。北見や那覇で上映されていても、多くの日本国民は行けない。「最後の上映館」はなるべく多くの者にとって問題の無い場所であることが望ましい。では、それはどこ?
都心である。人口二千万を有する南関東の中心地であり、交通網の結節点であり、行けば何かしらの用事を見出だせる場所。そういう場所で上映することが、コアなファンを招き入れるためには何よりも重要である。
さて、先ほどの『バッドガイズ』の例では千葉ニュータウンと台場であった。千葉ニュータウンにコアなファンは集められるであろうか。無理だ。いくら何でも千葉ニュータウンには行けない。だから台場に落ち着いた。私にはそう思えて仕方がない。
そういえば、『プロメア』も確か幾つか残っていたものの、最終的に都心に最も近いチネチッタだけに絞られていたような。
なお、上記はあくまで私の個人的な解釈である。『プロメア』はそもそもマーケティングの段階からチネチッタと提携していたような気もするし、的外れなことを言っているかもしれない。違っていたらごめんなさい。