2023.03.16(残290日)
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ナナチが生き残ったのは偶然か?
私、思うことがあります。どうしてナナチは生き残ったのでしょうか。
偶然でしょうか。そうは思えません。ボンドルド卿は基本的に、素材を大切にする方です。いくら孤児でいくら足が付かないとはいえ、そこに何らかの生産性がそこに見いだされるのであれば、無為に消費することなく何らかの形で残しておきたい、そう考えるのではないでしょうか。
故に私はこのように考えます。ナナチは偶然ではなく、意図的に生き残った。最初から——少なくとも途中から——恐らくナナチはあのような結末を迎えることが約束されていたのではないでしょうか。
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ナナチの生き残った理由①:仮説立証としての素材
ではどうして、ナナチが選ばれたのでしょう。
ボンドルドは科学者です。彼の研究スタイルも仮説立証型で、仮説を立て、それに見合った実験を行うことによって立証する、というのが基本であると考えて良いでしょう。ナナチの件に関しても同様で、恐らく論理的仮説が最初にあって、そこから必要な素材、つまり実証実験のためのサンプルを集めに孤児を回収したのだと思います。
では、その仮説とは何か。それは「友情が祝福の凝縮における重要なファクターとなる」ということではないでしょうか。もちろん作中の台詞から察するに、ナナチが最終的にあのようなふわふわになることまでは考えついていなかったように思います。が、祝福の存在を掴んでいたこと、祝福と呪いを分け合う装置が開発されていたこと、そしてナナチとミーティを奈落に落とす前のボンドルドの発言から推察するに、友情が何らかのファクターになることはボンドルド自身、仮説としてあったはずです。
ここで、孤児の運送において、狭い箱のようなものに押し込めていたことの意味が理解できます。それは第四層まで運ぶための運用上の問題に留まらず、あの閉鎖環境における友情の醸成を狙っていたのではないでしょうか。閉鎖環境において人間はどうしても、相互に支え合おうとします。何も深い絆で結ばれたのはナナチやミーティだけでなく、他にも何組か在ったはずです。つまり、あの運送方法は仮説立証のための実験の第一段階に過ぎなかった、と考えることが出来ます。
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ナナチの生き残った理由②:追随許さぬ利用価値
しかしこれではまだ、ナナチが生き残った説明とは成り得ません。ミーティでも良いわけですし、他の誰かでも良いはずです。では、なぜナナチが?
ところでナナチはとても頭が良い。文字、しかも古代の文字を独学でマスターし、本まで読んでしまうほどの秀才です。それに留まることなく、ボンドルド卿の下で助手として医学をマスターし、彼の下を離れたあとも医学的知識を応用して治療法を確立する、自身に見える「ふわふわ」が力場だと看破する*1、奈落生物の特性を把握し対策を講じる、探検隊のブレインとして多くの助言を為す、など、その秀才ぶりは遺憾なく発揮されているわけです。
まあ、そういうことです。ナナチは助手として十二分に利用価値があった。そして何より、祝福を受けた後の具体的状況——何が見えるか、どういう心情か、どういう変化が自身に起こったか——について客観的に説明できる可能性が高いと考えられた。この点において、明らかに——出会ってから少し観察しただけで——他の孤児よりも優れていたので、選ばれたのではないでしょうか。科学において何より重要なのは客観的情報ですからね。ボンドルド自身に最終的に適用するならば、尚更。
これでミーティなら、ただ泣いて終わりそうです。そうなれば壮大な——多額の費用と工程を要したであろう実験は無価値なものとなります。ボンドルド卿が知りたいのは「祝福による心身への影響」という客観的事実であるはずであって、その素材の主観ではない。その点において、苛烈なまでに主観を放棄できる、少なくとも主観と客観を分離できる頭脳の持ち主であるナナチは最適です。
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黎明卿——素晴らしい御方
こう考えてみると、ボンドルド卿は一見狂っているように見えて、極めて合理的に物事を進めています。これをあらゆる局面で徹底しているからこそ、奈落の科学的原理追究は進み、黎明卿という名を得るまでになったのでしょう。素晴らしい。ますます尊敬の念が強まりました。
*1:記憶の限りでは、リコはあれを見たとき「力場」だと気づいていませんでした。ナナチは頭が良いですね。