2023.03.23(残283日)
彼の夢を見た。
私はすっかり彼のことを、そして恋を、愛を忘れたつもりであった。忘れようと努めたのであるし、実際、その努力は功を奏した。私は彼のことを日常生活において思い出すこともなかったし、誰かに恋することも、誰かを愛することも、あるいは誰かに弱みを見せることすらなくなった。強がり、というのではなくて、もはや恋も愛も私の中から枯れてしまったのである。私はただ砂漠の中に偶然一本残った木でしかない。木ですらないのかもしれない。もはや私が外界と接触を持つ機会は二度と訪れない。たとえ友人と楽しく遊んでいようとも、それは劇場の体験であって、私そのものの体験ではない。私はただ、視界という映画を楽しんでいる観客でしかない。その視界と交点を持つことは決して無い。恋も愛も、私にとってはただの作品のスパイスに他ならず、私自身から起こりうる感情では決して無い。
そう思っていた。
そう思っていたのに、私は彼の夢を見てしまった。夢の中で彼は、十年前と同様に温かかった。
だから結局、私はこういうことなのだ。恋も愛も枯れてしまったのではない。ただ、彼だけが私の求めるところであった。そしてそれが叶うことはもう、二度と無い。私は既にスポットライトから外れている。スポットライトから外れた人間の末路は誰もが知っていることであろう。
それでも私は活動しなければならない。たとえ彼が再び私の前に現れなくとも、私は夢の中に彼を見出すことが出来るのだから。