2023.10.12(残80日)
十月、31日のうち12日の経過。残り19日。61.3%。
一年、365日のうち285日の経過。残り80日。21.92%。
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『恋愛アパート』について
『恋愛アパート』という映画を観た。まずまず面白い映画であったし、なにより結婚詐欺や大家ビジネスに手を出した夫婦という際どいテーマを扱っているのに、心温まる、優しいストーリーであった。脚本家は『モンキー・ビジネス』と同じ、I. A. L. Diamondであるらしい。確かに彼らしい――観客に思考を許さない圧倒的テンポ、教科書的ともいえる構成、見事な伏線回収、そして一欠片の毒。『お熱いのがお好き』も彼の脚本であるようだ。観てみたいと思う。
ここで私は思ったことがある。登場する、というか物語の主軸たるキャラクターの一人、貴婦人から金を巻き上げる結婚詐欺師。これ、どこかで観たことある……
『殺人狂時代』ではないか?
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『殺人狂時代』の影響の可能性
そもそもキャラクターとしてありふれたものであることはさておき、この映画は1951年の公開である。一方の『殺人狂時代』は1947年の公開。戦勝に浸り復員兵をいたわる世情に「数人なら犯罪者、百万人殺せば英雄」と言い放って盛大に非難を浴びた映画である。同じキャラクター性を用いているのであれば、多少なりとも影響を受けていてもおかしくない。
この観点でみると、両作品における結婚詐欺師は多くの共通点を持っている。完全に独善的とは言い難い性格、貴婦人に限定されたターゲット、何らかの信念――一般的な犯罪者としての顔からは乖離しているのが、両作品における結婚詐欺師というものである。偶然に過ぎないのかもしれないが、少なくとも、良心が犯罪から覗いているというところは共通している。
そして一つだけ、両作品における結婚詐欺師の扱いについて決定的な違いがある。それは――殺すか生かすか。
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『殺人狂時代』の終わり
『殺人狂時代』では結婚して殺して遺産をせしめる、という手法であった。一方の『恋愛アパート』では、結婚せず生活に必要な分は残るほどの金だけいただいて去る、という手法である。ここに私は、『殺人狂時代』へのアンチテーゼを感じずにはいられない。
なぜ殺さなければならないのか?
金が欲しいなら生かしておけばいいではないか?
なぜ万人が幸せになってはならないのか?
思い過ごしかもしれない。しかし私には『恋愛アパート』が、『殺人狂時代』に対するアンチテーゼであるように思われて仕方がない。
いや、アンチテーゼではない。仮に脚本家が意識したとすれば、あれは戦間期の薄暗い時代を終わらせ平和で幸せな時代に向かう、一つの澪標として描いたはずだ。
つまり、チャップリン時代の終焉である。